遺言の基礎知識

遺言とは、遺言者(被相続人)の最終の意思を表すもので、遺言者自身がその遺産の処分方法を定めることにより、相続を巡る争いを防止するために行うものです。遺言書の作成方法は法律(民法)で定められていますから、法律的に有効な遺言をするには、民法の定めに従って遺言書を作成しなければなりません。

ここで、遺言に関する基本事項をご紹介いします。

1遺言書をつくるメリット

1.遺産争いを未然に防げる

遺産の分け方について本人の意思がハッキリするため、遺族間での争いを未然に防げます。

2.財産を確実に残せる

大切な財産を誰に残すのか指定が可能です。

3.相続手続きがスムーズ

不動産の名義書換などの手続きが簡素化され、遺族の手間が省けます。

4.生前の希望が叶う

葬儀の方法やお墓の指定、子どもの認知、親しい人へのお礼などの希望が叶えられます。

2こんな「願い」を遺言書に託そう

項目 具体例
①特定の人に財産をあげたい 全財産を永年世話をしてくれた長女にあげたい
②相続させたくない身内がいる 行方不明の家族や前妻の子とのトラブルを回避したい
③お世話になった人にお礼がしたい 共に暮らした内縁の妻に財産をあげたい
④事業を子どもに承継させたい 自分の会社を一緒に頑張った長男に譲りたい
⑤未成年の子どもに後見人を指定したい 幼い子どもの面倒を後見人に託したい
⑥配偶者の将来が心配 子どもがいないので全財産を妻にあげたい
⑦婚姻外の子どもを認知したい 生前認知できなかった子どもにも財産をあげたい
⑧葬儀やお墓について希望がある 葬儀は簡素に、遺骨は海に散骨してほしい
⑨ 献体や臓器提供をしたい 自分の身体を困っている人に役立てて欲しい
⑩ペットの面倒をみてほしい ペットの面倒を見てくれる人に財産の一部を遺贈したい

3遺言書の種類 (普通方式3種類)

自筆証書遺言とは

遺言者が全文を自分で書き(自筆)、署名・押印をして自ら保管します。用紙とペンがあればいつでも作成できます。

自筆証書遺言は、気軽に作成することができて、費用もかからないのが魅力的ですが、一方で、様式の不備で無効になったり、偽造、隠避や紛失の可能性もありますので、実現性に少々不安が残ります。

公正証書遺言とは

遺言者の意思に基づいて公証人が遺言書を作成し、原本を公証役場に保管します。

公証人が関与するため様式不備を回避でき、偽造・紛失の危険もなく、遺言書の内容がきちんと実現されるという安心があります。

一方で、証人が2人以上必要であったり、公正証書を作成するのに費用がかかる難点もあります。

秘密証書遺言とは、

自筆証書遺言と公正証書遺言の中間的な方式で、その名の通り内容を秘密にしておきたい場合に作成します。

書かれた遺言書は遺言者がその証書に署名、捺印した後、封筒に入れ、その印と同じ印で封印を押します。

それを公証人、証人(2人)の前に提出し、封書に遺言者本人、証人及び公証人が署名捺印します。

手間がかかる割にはメリットが少なく、実際はほとんど利用されていないのが現状です。

  作成方法 証人の有無 署名・捺印 検認の有無 メリット/デメリット





本人の自筆 不要 本人のみ 必要

メリット

  • 手軽に自分で作成できる
  • 費用がかからない
  • 内容を秘密にできる

デメリット

  • 様式不備で無効の可能性がある
  • 偽造・紛失・隠避の可能性がある
  • 開封には家庭裁判所の検認を要する





公証人が作成 証人2人

本人

証人

公証人

不要

メリット

  • 公証人の関与で様式不備を回避できる
  • 公証役場に保管し紛失の心配がない
  • 家庭裁判所の検認が不要

デメリット

  • 第3者の関与で手間と費用がかかる
  • 内容を証人と公証人に知られてしまう





本人(代筆で作成が可能)

証人2人

公証人

本人

証人

公証人

必要

メリット

  • 代筆やワープロで作成が可能
  • 内容を秘密にできる

デメリット

  • 様式不備で無効の可能性がある
  • 第3者の関与で手間と費用がかかる
  • 紛失・隠避の可能性がある
  • 開封には家庭裁判所の検認を要する

4法的効力が生まれる主な遺言事項

遺言書にはどんな事でも書けますが、全てが法的に有効なわけではありません。

遺言書の法的効果が生じる事項とは、相続・身分上の行為、財産上の処分に関する行為に限られますが、遺言書に記載することで一定の法的な拘束力(遺言の記載をもって手続きが可能)を生じます。

遺言の記載事項 具体例
①財産の処分方法 誰にどの財産を相続させるかを指定する
②相続分の指定 法律で決められた相続人の分配割合(法定相続分)を変更する
③ご本人の印鑑証明書 財産をあげるかわりに○○をする事など条件付で財産を遺贈する
④遺産分割の禁止 遺産分割(最長5年)を禁止し、自分の死後一定期間の遺産分割を禁止する
⑤相続人の廃除、廃除の取り消し 生前遺言者に重大な非行を繰り返した推定相続人の廃除をする
⑥子どもの認知 結婚前に生まれた子ども(非嫡出子)を遺言の中で認知する
⑦遺言執行者の指定 遺言の内容を確実に実行してくれる人を指定する
⑧後見人、後見監督人の指定 幼い子どもや認知症の妻のために後見人を指定する
⑨遺留分の減殺方法の指定 遺留分請求に対する支払の指定(財産)をする

5遺言書をつくるための事前ポイント

ここでは、遺言書を書く前に行うべき事前準備をご紹介します。

1.あなたの相続人を調べよう

誰がどれだけ相続する権利があるか確認しておきましょう。

2.遺留分に気をつけよう

各相続人の遺留分を確認し、事前にトラブル回避を考察しましょう。

3.相続財産を調べよう

預貯金や不動産などの財産一覧を作成しておきましょう。

4.誰に何をあげるか決めよう

相続人や受遺者の生活状況などを考慮し、分配分を決めましょう。

5.遺言執行者を選んでおきましょう

遺言書の内容を実現してくれる人を選んでおくと安心です。

6.必要書類を集めよう

相続関係や財産を特定する情報を事前に集めておきましょう。

7.遺言書の下書きをしましょう

自筆証書遺言は完璧な下書きを、公正証書遺言はメモを作成しよう。